恐怖を乗り越えられない雛苺
- 75 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 18:51:48.09 ID:+5yfeh9D
- 真紅「ふぅーっ……」
ジュン「どうした真紅? 『どうしたの?』って聞いてほしいと言わんばかりの、大きな溜息なんかを窓辺でついて。
あと、外暗くなってきてるんだから窓は閉めてくれよ、虫が入る」
翠星石「溜息をつくと幸せが逃げるですよ真紅」
雛苺「えええ? 幸せが逃げちゃったのよ!? 早く追いかけて捕まえなくちゃ! ジュン、虫取り網かしてぇ~!」
ジュン「網で幸せは捕まえられんよ。それより真紅、本当にどうした?
悩み事なら相談に乗るぞ? お前は一人じゃないんだ、何でも言ってみろ」
真紅「実は……」
翠星石「実は?」 - 76 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 18:54:45.25 ID:+5yfeh9D
- 真紅「憂いを帯びた薄幸の美少女真紅ちゃんを演出していたのだわ」
ジュン「はぁ?」
真紅「最近の私は恵まれすぎている」
翠星石「ほうほう?」
真紅「三食昼寝、テレビにDVD付き。ほねっこゴン太くんよりもだらしのない生活。
昨日なんて、折角の休日だったというのにドクターマリオしかやってない。ジュンですら図書館で巴とデートしていたのに」
ジュン「デートじゃねぇッつの。と言うか、つまりは真紅、一日を無駄に過ごしたことに自己嫌悪してるってわけか」
真紅「いいえ、そうじゃあない。過ぎ去った昨日を悔やんでも取り戻せるわけがない。大切なのはいつだって明日に繋がる今日。
そう……今だけだわ。今を頑張った者だけに明日は来るのよ。明日って今よ」
ジュン「へーへー。で?」
真紅「近所のおばさま方からも『働かない乙女』のレッテルが張られている、この真紅ちゃんは考えた」
翠星石「ちなみに『働く乙女』は蒼星石のことですよ」
ジュン「そうなんだ」
雛苺「ヒナと翠星石は、たまに、のりのお使いとかするから『少しは働く乙女』なの」
ジュン「ふーん」 - 77 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 18:58:55.50 ID:+5yfeh9D
- 真紅「『働かない』のではなく『働けない』ということにしようと」
ジュン「?」
真紅「そのために、この部屋の窓から顔を出して、ひたすら具合が悪そうな演技をしていたというわけなのだわ」
翠星石「とどのつまり、仮病……ですか?」
ジュン「あほらし……」
真紅「あほらしいとは何よ!? ローゼンメイデンは風評が全てなのだわ!
伝説の薔薇乙女という肩書もこういった地道な努力あったればこそ!」
ジュン「はいはい。心配して聞いた僕が馬鹿だったよ。もう分かったから、好きなだけそこで溜息ついてろ」
真紅「……その点、水銀燈はうまくやっていた。廃れた教会で自らの姿をチラ見させて、幽霊の噂まで作り上げた」
ジュン「意図的だったんだアレ」
真紅「なんとなく水銀燈のイメージ戦略が鼻についたから、役所に連絡して、その廃教会の撤去工事を前倒しで進めさせたけど」
翠星石「なんと!?」
真紅「ここの役所は一般市民の声に迅速に応えるいいお役所だわ」
ジュン「真紅……」
雛苺「真紅は水銀燈のことが嫌いすぎなの」
真紅「いいえ! みんながあの女狐に甘すぎるだけなのだわ! あの子のキャラ作りはJAROに通報してもおかしくないレベル。
BIRZの表紙では小鳥の血を使ってまで吐血&病弱メイデンのフリをやっていた!」
翠星石「人形が血を吐くわけねーですしね」
ジュン「いや、それは違うだろ?」
真紅「こすずるくてよ水銀燈!」
ジュン「……本人に直接言えよ」 - 78 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:00:17.84 ID:+5yfeh9D
- 真紅「しかし、水銀燈がその気なら私だってやってやるわよ。
清純派乙女の真紅ちゃんが本気を出せば今世紀抱きしめたい薄幸の美少女ランキングトップに入ることぐらい……」
ジュン「いい加減、清純派を気取るのはやめろって」
翠星石「発想が完全に『汚れ』なんですから、真紅」
真紅「だまらっしゃい! 見てなさい! 一週間後には近所のおばさまの風評も
私の憐憫さを高く評価するものに変わるはずなのだわだわ!!」
ジュン「憐憫さは評価されるものじゃないはずだと思うが」
真紅「ええい! ああ言えばこう言う下僕ね!!」
ジュン「お前がつっこみどころと穴が満載な理論ふっかけるからだろうが」
真紅「何よ!?」
ジュン「何だよ!?」 - 79 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:02:07.92 ID:+5yfeh9D
- §桜田家の前の道路
ジュン『わーわー』←窓開けっ放しなので声が駄々漏れ
真紅『ぎゃーぎゃー』←上に同じ
近所のおばさん「今日も桜田さんのとこの真紅ちゃんは元気ねぇ」 - 80 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:02:46.86 ID:+5yfeh9D
- §五分後・桜田ジュンの部屋
のり『みんなー? 夕ご飯できたわよーー』
ジュン「お? メシだってさ」
真紅「わぁい」
翠星石「わぁい」
雛苺「……」 - 81 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:37:13.51 ID:zSK4eFPD
- §桜田家・リビング
ジュン「いやぁ、お腹が減った」
真紅「くんくん、いい匂いがする」
翠星石「間違いなく花まるハンバーグですね、これは」
雛苺「……」
のり「せいかーい! 今日は久しぶりの花まるハンバーグよ!」
真紅「いぃやっほーっ!!」
翠星石「花まるです! 花まるですー!!」
真紅「この喜びをダンスで表現したいのだわ」
のり「あらあら」
ジュン「埃は立てるなよ」
真紅「いぇ~い! 花まる花まる~」ふりふり
翠星石「花まる! 花まる! エル・オー・ブイ・イー・は・な・ま・る!!」ぴょんぴょん
雛苺「……」 - 82 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:38:43.97 ID:zSK4eFPD
- ジュン「? あれ? どうしたんだ雛苺? お前は踊らないのか?」
真紅「そうね、花まる感謝ダンスのセンターはいつも貴女なのに」
翠星石「お腹でも痛いんですかチビチビ?」
雛苺「そ、そんなことないのよ! ヒナはただ、ダンスよりも早く食べたいだけなの!」
のり「あらそう? じゃ、早速いただきましょうね~」
雛苺「う、うぃ……」 - 83 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:41:56.78 ID:szRWrId+
- 真紅「ぐゎふぐゎふ! もしゃもしゃ!」
翠星石「ずびずばー」
ジュン「本当、いい食べっぷりだよなぁ。大して動いてないくせに」
真紅「これこそお父様が私達に付けてくれた超絶高機能」
翠星石「お父様は翠星石達に美食を堪能するという楽しみをくれたのです。マジ感謝です。リスペクト・ザ・ゴッドファーザーですぅ」
ジュン「だよなぁ。昔、槐先生や薔薇水晶も言っていたけど、薔薇乙女は栄養源として食べ物を摂る必要はあまり無いんだろう?」
真紅「マスターさえいれば、食べなくても20~30年は平気ね。水も要らない」
ジュン「単純に道楽で食事しているだけか? なんだか無駄だなぁ」
翠星石「それを言っちゃあ究極の少女自体が無駄の極みですよ。事業仕分けのメスが入ったら、まず第一に消されるですぅ」
真紅「ローゼンメイデンは七体も要るんですか? 一体じゃ駄目なんですか!?」
翠星石「アリスゲーム的には一体でいいんですけどね……」 - 84 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:44:45.62 ID:szRWrId+
- ジュン「それでその……だ、この食事という道楽に命を懸けていると言っても過言ではないおチビさんは……」
雛苺「……もそもそ」
のり「どうしたの? ヒナちゃん? 今日の料理、口に合わなかった?」
雛苺「そ、そんなことないのよ! とっても美味しいの!」
翠星石「うむむ、おかしいですね? いつもなら翠星石達と一緒に
ゴハンおかわり競争に突入して、ブッチぎりの一位のはずのチビ苺が」
雛苺「きょ、今日はお腹が減ってないだけなのよ」
ジュン「また、僕達に隠れてお菓子を勝手に食べたのか?」
のり「ううん。それはないはずよ。お菓子の戸棚に鍵をつけるようにしたから」
真紅「ええ、のり以外にお菓子の出し入れができる人間はいないのだわ」
ジュン「既にそこまでセキュリティを強化せねばならなくなっていたのか」
雛苺「ヒ、ヒナだっていつだって元気いっぱいなわけじゃないのよ。レディにはレディの都合ってものがあるの!」
ジュン「む、そうか。そりゃ悪かったな……」 - 85 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:46:02.44 ID:+5yfeh9D
- 真紅「……ところで雛苺?」
雛苺「うぃ?」
真紅「貴女、顔……だけじゃなくて体全体が微妙に右に傾いているんだけど」
のり「そう言えば確かに斜めになっているわねヒナちゃん。だめよ、ちゃんとまっすぐ座ってご飯は食べなくちゃ」
雛苺「そそそ、そんなことないはずなの!」
真紅「……もっとはっきり言うと、雛苺、貴女、右側の歯だけでご飯食べてるでしょ?」
雛苺「ッッッ!?」
のり「!? ま、まさかヒナちゃん」
翠星石「チビ苺……ひょっとして虫歯……?」
雛苺「ちちち、違うのよ! ヒナ、虫歯なんかじゃないもん! これはアレなのよ! 右脳を鍛えるためにやっているのよ!!」
ジュン「脳ミソ無いだろ」 - 86 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:47:06.14 ID:+5yfeh9D
- 翠星石「……スィドリーム!」
スィドリーム「しゃきーん!」
雛苺「にゅにゅ? スィドリームを出して何をする気なのよ?」
翠星石「ここにスィドリームの、あむぁ~くてキンッキンに冷えた水を用意したです」
雛苺「……っ!!」
翠星石「さあ」
真紅「ぐいっと飲んでみなさい。それも体は真っ直ぐにして口全体に水を含ませるようにしてね……」
雛苺「ヒ、ヒナはダイエットのために甘いものは断っているのよ!」
ジュン「昨日はマポロチョコとポッキーを食べてたよな?」
雛苺「今日からダイエットなの!」
翠星石「スィドリームのお水はカロリーオフですから安心するですぅチビチビ。
それともなんですか? この姉のすすめた水が飲めねーと言うのですか?」
雛苺「でもぉ」
真紅「デモもスト様もないのだわ。いいから飲みなさい」
雛苺「うゆゆ……」
真紅「さあ!」
翠星石「さあ!」
ジュン「さあ!」
のり「ヒ、ヒナちゃん……」 - 87 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:48:05.62 ID:+5yfeh9D
- 雛苺「わ、分かったのよ! 飲めばいいのよね! 飲めば」ぐいっ
真紅「お!」
ジュン「いった!」
雛苺「……ッ!」ぷるぷる
翠星石「? 小刻みに震えているですぅ」
雛苺「びぇえええええええええええええええええ!! 痛いのーっ!! 沁みるのーーーーっっ!!」
のり「だ、大丈夫!? ヒナちゃん!?」
ジュン「あらら、やっぱ虫歯か……」
翠星石「この姉達に隠し事ができるはずもなかろうです」
真紅「バレバレだったのだわ」 - 88 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:50:25.53 ID:+5yfeh9D
- §食後・桜田ジュンの部屋
雛苺「うゆゆゆ……」ひりひり
ジュン「とりあえずアイスノンで左のほっぺを冷やしてはいるがローゼンメイデンって虫歯になるんだな……」
翠星石「これぞお父様が翠星石達に付けてくれた超絶高機能!
私達にとって虫歯になるぐらい、朝飯前……いや朝飯後ですぅ!」
ジュン「いらん機能つけたなローゼン」
真紅「最近ちゃんと歯磨きしていなかったでしょ雛苺」
雛苺「し、してたもん!」
翠星石「嘘つくなですぅ。チビチビの歯ブラシ、真紅や翠星石の歯ブラシと比べて
ピカピカの新品みたいに綺麗じゃねーですか。たいして使ってない証拠ですぅ」
雛苺「うゆゆ……」
ジュン「で、どうすりゃ治るんだ? 歯医者に行くわけにもいかないんだろ?」
翠星石「ふふふ、お父様がつけてくれた素ン晴らしい自己再生機能を
忘れちゃいないですかチビ人間? つまり、虫歯ごとき放っておいても治るのです!」
ジュン「あ、それは凄い。人間だったら虫歯放置で深刻な事態になりかねないのに。で、どれぐらいで治るんだ?」
真紅「ざっと一年ぐらいね。人工精霊の補助があったとしても」
ジュン「長いな!」
真紅「それも、その間は一切食事をしないという条件付きで」
ジュン「きついな!」 - 89 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:53:08.10 ID:+5yfeh9D
- 翠星石「まあ、食べなくても死にはしないのは、ついさっきも真紅が言ったですが……」
雛苺「うゆゆ……」ずっきんずっきん
真紅「雛苺のような甘味中毒メイデンの場合、禁断症状で発狂するかもね」
雛苺「ヒナ、一年もうにゅ~が食べられないくらいなら、虫歯を我慢するの!」
ジュン「馬鹿言え。今は左の奥歯だけだが、その内に全部の歯が虫歯になるぞ」
翠星石「一年だけの辛抱ですから養生しろですチビ苺。一年なんてあっと言うまです」
雛苺「いーやーなーのっ!!」
真紅「それなら取るべき方法はただ一つ」
雛苺「?」
翠星石「……虫歯を抜くしかないですね」
雛苺「ッッ!?」
ジュン「ぬ、抜くって? どうやって!?」
真紅「どうもこうも物理的によ」
翠星石「ペンチとかねーですかチビ人間?」
ジュン「い、一応プラモなんかを作る時に使うのがあるが……」
真紅「それで結構」
雛苺「いいい、嫌なの! ペンチで歯を抜くだなんて怖すぎるのよ!!」がくぶる
翠星石「そうビビんじゃねーですよチビ苺。抜いた方が治りは早いんですから」
真紅「ええ。抜けば一週間で次の歯が生えてくる」
ジュン「サメかよ」
真紅「かの水銀燈も私の絆パンチを顔面に受けた時に歯が4~5本イったけど
次に会った時には元通りになっていた。折れた翼の方は治りが遅かったようだけど」
ジュン「マジかよ」 - 90 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:54:04.31 ID:+5yfeh9D
- 雛苺「それでも、いーやーなーの!! ペンチで抜くのはダメーーっ!!」
真紅「しょうがない。じゃあ歯を食いしばりなさい雛苺」
雛苺「うぃ?」
真紅「水銀燈方式で行くのだわ。この場合、関係ない歯も巻き添えで抜けるけど
いいわよね? ペンチよりも恐怖は薄いはず」
雛苺「いやーーーーーっ!! 真紅の鬼ーーーーッッ!!」 - 91 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:57:29.81 ID:zSK4eFPD
- 雛苺「ううう! ひっく……っ! ぐずっ……」びくびく
ジュン「あーあ……、完全に怖がっちゃってアルマジロみたいに丸まっちゃったぞ。力尽くは無理なんじゃないのか?」
真紅「後頭部を殴って気絶させて、その隙に抜くというのは?」
翠星石「気絶中に抜けば痛みも感じないはずですぅ」
ジュン「他人事だと、本当に無茶苦茶言うよな、お前ら」 - 92 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 19:59:08.55 ID:zSK4eFPD
- 真紅「それじゃあ、困った時の槐だのみといきましょうか。ちょっと遅い時間帯だけど、まだギリギリ営業時間でしょ」
翠星石「あのオッサンに借りばっかり作っているみたいで、気は進まないですけどね」
ジュン「他に方法も無いだろうしな……、ほら雛苺起きろ。さっさと行くぞ」
雛苺「い、痛くしない……?」
ジュン「知らん。が、真紅と翠星石よりは優しくしてくれるはずだ」
雛苺「う~、それなら行くの……」
真紅「面白そうだから私もついていくのだわ」
翠星石「翠星石もですぅ」
ジュン「……気が進まないんじゃなかったのかよ」 - 93 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:01:50.19 ID:szRWrId+
- §そんなこんなでドールショップ槐
ジュン「おじゃましまーす」カランコローン
鳥海「いらっしゃい。て、ジュンじゃないか? 久しぶり」
ジュン「あれ? 鳥海!?」
アレニエ「ドドドールショショップドドドドドドドドドールショショショショッププププ
ドドドールショッププププええええええんじゅヘよよよよようこそそそそそそ」
真紅「いつになくバグってるじゃないアレニエ、ダイジョブ? 千手ゲンキ? ここっていつからムーンサイドになったの?」
翠星石「カナチビに手酷くやられたのが直りきってねーんじゃねーのですぅ」
アレニエ「ゲゲゲンンキキキ。ワタシハハハハゲンキ……」
鳥海「まあリハビリ中だね。お店の掃除とかは特に手をたくさん使うことにもなるからアレ二エにはちょうどいい」
雛苺「そういうものなのよ?」 - 94 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:05:09.85 ID:szRWrId+
- ジュン「と言うか鳥海、お前が店番やってるってことは、槐先生と薔薇水晶出かけてるのか?」
鳥海「いや、二人ともちゃんといるよ。だけど今は薔薇水晶のレストア中だから」
真紅「へー……て、レストアぁ!?」
鳥海「最初はちょっとした整備のつもりだったらしいけど
なんか二人とも熱中しはじめちゃって。だから俺が急遽、店番に呼ばれたわけ」
翠星石「奥のアトリエで秘密の作業中というわけですか」
ジュン「うーん。今日は出なおした方がいいかもな」
雛苺「!? イヤなのよ! ヒナは一生懸命勇気を出して来たのよ!
今日駄目だったら明日はもっと勇気が必要なの!! もうヒナはこれ以上勇気が出る自信がないの!」
真紅「私らもここまで来たのだから手ぶらで帰るのは嫌なのだわ」
翠星石「店のもの何か一つでもお土産にもらわなくちゃ、ワリにあわねーですぅ」
鳥海「何の用だか知らないけど、槐先生なら構わないんじゃない?
俺で応対しきれない客が来たら、呼んでくれとも言われていたし」
ジュン「そうか? 悪いな。ちょっと雛苺の虫歯を診てもらいたくて」
鳥海「虫歯ぁ!? ローゼンメイデンって虫歯になるのか!? 嘘だろ!?」
ジュン「嘘じゃないよ。僕だって驚いた」 - 95 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:08:04.24 ID:zSK4eFPD
- 鳥海「凄いな……、いや、凄くないのか? まあどっちでもいいか。
けど、そういうことなら槐先生も興味津々なはずだ。よし、一緒に奥のアトリエへ行こうぜ」
ジュン「え? 店番は?」
鳥海「ダイジョブダイジョブ。アレニエ、君一人でもできるよな?」
アレニエ「オオオオオオマカセセセセセアレレレレレレ」かくかく
鳥海「な? アレニエもああ言ってるし」
翠星石「いや、アレは全然ダメなパターンだと思うですぅ」
鳥海「そう? じゃあ、ジュディカ達も呼ぶか?」
真紅「増えたらもっとダメな気がするのだわ」
雛苺「なんでもいいから、早く槐せんせーにヒナの治療をお願いするのーっ!」
ジュン「わ、分かったよ。じゃ、鳥海も一緒に」
鳥海「そうこなくっちゃ」 - 96 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:10:05.92 ID:zSK4eFPD
- §槐のアトリエ・入り口のドア前
ぎゅいーん! ごがががっががっがががが!!
ジュン「なんかすごい音が部屋の中からしているな」
ギコギコギコギコ! ゴリゴリゴリゴリ!!
真紅「薔薇水晶のレストアってこんなにメカメカしい音がするものなの?」
雛苺「あやややや……」がくがくぶるぶる
翠星石「きっとドリルとかロケットパンチが出るように改造しているですぅ」
鳥海「そんな馬鹿な。……と、ノックしてもしもぉ~しっ!!」ドンドン
槐「あれ? 皆人君? お客さんでも来たの……?」がちゃっ
鳥海「あ、いえ実は」
ジュン「どうも、すいません。お取り込み中に」
真紅「やっほー」
翠星石「ちょりーっす」
雛苺「……」
槐「ジュン君と三馬鹿メイデンじゃないか? 何か用?」
ジュン「はい……」 - 97 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:17:44.34 ID:szRWrId+
- 槐「雛苺が虫歯になったぁ!? 本当かい!? 凄いな……いや、凄くないか」
鳥海「あ、俺と同じリアクション」
槐「しかし飲食を断てば一年で治癒。抜けば一週間で治癒。やっぱり凄い、ローゼン」
ジュン「薔薇水晶もそうじゃないんですか?」
槐「自己再生能力は、かなり難しいものだよ。薔薇水晶にも僅かには備わっているが
それでも、こうして日常生活中での劣化は僕の手でレストアしなくちゃいけない」
真紅「へー……」
ジュン「重ね重ね、大切な作業中に邪魔してすいません」
槐「いやいや、レストアはあらかた終わったところだ。むしろ、状況的にはナイスタイミング」
雛苺「?」
槐「薔薇水晶も今ちょうど歯を交換したとこ」
翠星石「歯の!?」
鳥海「交換んんんんん!?」
槐「驚くことじゃないだろ? 薔薇水晶、お米もちゃんと77回噛んでから食べるから
歯の摩耗が早くてね。新しい歯に取り替えたんだ」
ジュン「いやいやいや、簡単に言うけど、そんなことどうやって?」
槐「乱暴に言えば、ペンチみたいなので一本ずつ抜いて新しい歯を突っ込むんだけど」
雛苺「……ッッ!?」がくぶる
槐「雛苺の歯も今なら道具も揃ってるし、スパっと簡単に抜いてあげられる。
新しい歯を入れなくても一週間で生えるんでしょ? 素晴らしきかなローゼンメイデン」
雛苺「いいい、嫌なのよ! 痛いのは嫌なのぉおおおおおお!」がくぶる
槐「えー? ダイジョブダイジョブ。僕のやり方は全然痛くないからさ」
雛苺「ししし、信じられないの!!」
槐「じゃあ薔薇水晶に確認するといい。彼女、レストア中ずーっと平気な顔してたから」
雛苺「そうするの! 薔薇水晶は、そこ(部屋の奥)にいるのよね!?」
槐「うん。まだ横になっているけどね」 - 98 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:20:42.46 ID:szRWrId+
- §槐のアトリエ内
槐「やあ薔薇水晶、気分はどうだい?」
薔薇水晶「もんひゃいあひまへん。ひゅぐに動へまふ」むくり
ジュン「?」
槐「今はうまく喋れないんだ。声帯が少し麻痺している。麻酔みたいなのを使ったから」
真紅「あら、よかったじゃない雛苺。麻酔使ってくれるって」
翠星石「人形なのに贅沢ですね」
雛苺「ま、麻酔を使えば痛くならないのよ?」
鳥海「そうだろうね」
雛苺「ねえ薔薇水晶! 本当に歯を抜いたりした時は痛くなかったの!?」
薔薇水晶「……ひゃい、じぇんじぇん」
ジュン「薔薇水晶もこう言っていることだし、抜くならさっさと抜いてもらった方がいいんじゃないのか雛苺?
ここでぐずっちゃ、槐先生にも迷惑だぞ」
雛苺「うにゅ~……」
槐「今ならサービスで2~3本おまけに抜いてあげようか?」
雛苺「っ!?」
槐「ジョーダン! 冗談だって、ちゃんと虫歯しか抜かないから」 - 99 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:24:40.81 ID:zSK4eFPD
- ジュン「えぇと、それとまたもやすいませんが槐先生、代金の方は……」
真紅「私達、保険が効かないのだわ」
槐「僕も医者じゃあないんだけど。まあ、それはさておくとして、お金は要らないよ。ただ……」
翠星石「ただ?」
槐「抜いた雛苺の虫歯を僕にくれないか? 色々と調べてみたい」
鳥海「俺も俺も」
槐「うん、皆人君にも、あとでちゃんと見せるよ」
鳥海「やったね」
ジュン「うーん……歯の一本ぐらいなら、いいかなぁ?」
雛苺「ヒナは虫歯なんて要らないから、それでいいのよ」
真紅「虫歯とは言え、ローゼンメイデンの一部。それを槐に明け渡すのは、ちょっとねぇ……」
翠星石「タダより高いものはないということですか。でも、ここまで来たんですから、やってもらえばいいんじゃねーのですぅ?」
ジュン「だよな。雛苺本人も了解していることだし」 - 100 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:27:09.35 ID:+5yfeh9D
- 槐「よし、商談成立。じゃ、雛苺ちゃんはどうぞこちらへ。そこの診察台に寝っ転がって待っててねぇ~」
雛苺「うぃ……」とぼとぼ
翠星石「チビ苺も覚悟を決めたようですね」
真紅「麻酔もかけてくれるんだから御の字でしょ」
薔薇水晶「……」
槐「どうする? 早速始めちゃうけど、君達も見学していく?」
鳥海「え? いいんですか? 俺見ていきたい!」
ジュン「僕はいい。遠慮します」
真紅「私らもいいのだわ」
翠星石「妹の歯が抜かれる場面なんて気持ちのいいもんじゃぁねーです」
ジュン「お前、家だと自らの手で歯を抜こうとしてたじゃねーか」
翠星石「それはそれ、これはこれですぅ」
槐「そうか、じゃあ、ついでと言っちゃあなんだけど雛苺の治療が終わるまで
薔薇水晶と一緒に店番していてもらえるかな? ジュン君、真紅、翠星石?」
ジュン「分かりました。雛苺のことお願いします」
真紅「雛苺も大人しくしているのよ」
翠星石「お前があまりに見苦しいとローゼンメイデン全体の評判が落ちるんですからね」
雛苺「……わ、分かってるのよ。ヒナ、ちゃんと我慢するの」
鳥海「悪いなジュン。ちょっとの間だけアレニエのこともよろしく」
ジュン「ああ」
薔薇水晶「では、店番に戻りましょう皆様」
翠星石「あ、普通に喋れるようになったですね薔薇水晶」 - 101 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:28:13.90 ID:+5yfeh9D
- 槐「さて、みんな行っちゃったけど淋しくないかな? 雛苺ちゃん?」
雛苺「ヒ、ヒナ淋しくなんかないもん! 怖くもないもん!」
槐「お、いい子だね。それじゃこれ、麻酔のお薬だから飲んで」
雛苺「これでグッスリなのよね?」
槐「いや、麻酔させるのは口の中だけだから意識はそのままだよ」
雛苺「!?」
槐「大丈夫、痛くない、怖くない……。ほら、しっかり診察台に寝て……」
鳥海「……」
雛苺「うにゃっ!? な、何か寝台の手すりが凹んで……? 変な跡がついているのよ?」
槐「あ? それ? 薔薇水晶が歯の治療中に力いっぱい握りしめた跡」
雛苺「ッッッ!?」
槐「大丈夫、薔薇水晶も我慢したんだから、雛苺だって我慢できるできる」キュイイイイイイ
雛苺「あややややややややや……」がくぶる
槐「暴れちゃダメだよー、暴れると手元が狂うからねー」
雛苺「にゃ……にゅ……」
鳥海「……!」 - 102 :創る名無しに見る名無し:2012/10/15(月) 20:33:15.41 ID:+5yfeh9D
- §ドールショップ槐
アレニエ「♪オオオオオソウジオソウジランランララララララ」ぱたぱた
真紅「ねえ薔薇水晶?」
薔薇水晶「なんでしょう?」
真紅「ほんっとうに槐のレストア、痛くなかったの」
薔薇水晶「……勿論です」
翠星石「何か歯切れが悪いですね」
薔薇水晶「新しい歯型がまだ馴染んでいないせいでしょう」
真紅「……じゃあ、なんでさっきからずっと微妙に涙目なの? 雛苺の手前、気付かないフリをしていてあげたけど」
薔薇水晶「これは、アレです。私は元からこうです。
水銀燈とのアリスゲームで顔面に深々と剣を突き刺されても勝負を続けたせいで……その後遺症で」
ジュン「そんな涙目のルカみたいな武勇伝は無かったろ」
??『ピギィィィィイイイヤァァァアアアアアアッッッ!!!』
翠星石「な、何ですか!? 今のは! ……悲鳴ッ!?」
ジュン「奥の……アトリエの方からだったぞ!? 雛苺か!?」
薔薇水晶「……」
真紅「……よく考えたら、そもそも薔薇水晶には効いたらしい麻酔が雛苺にも効くとは限らないわよね。
今日の説明じゃ、薔薇水晶と私達とでは体の作りも随分違うみたいだし」
翠星石「……薔薇乙女にションベンちびる機能は付けなかったお父様にマジ感謝ですぅ」
アレニエ「♪オソウジデスカ ♪レレレのレ」ぱたぱた
恐怖を乗り越えられない雛苺・終
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2012/10/16 14:29:12 コメント14 ユーザータグ ローゼンメイデン